大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(う)409号 判決

被告人 佐野定昌 外九名

〔抄 録〕

(一) 検察官の控訴趣意第一事実誤認の主張について、

第一点、所論の要旨は、原判決が本件犯行の目的を「嘉盛が広大な山林を所有し、村内随一の資産家であるに拘わらず、徒に私慾を追求し、革新陣営の活動を阻害する行為をしたので、同人を指弾し、その所有する米等を強奪し、且つその器物を損壊する等にあつた」と認定したが、右は犯行の外形にのみ捉われたもので事実を誤認したものである。被告人等の本件犯行の真の目的は、嘉盛に暴行脅迫を加え、同人所有の山林の解放を承認させることにあつたものであると主張する。よつて按ずるに、証人佐野嘉盛の原審公判調書中の各供述記載、同人の当審証人尋問調書中の供述記載によると、本件発生の三年位前から嘉盛は屡々共産党細胞のメンバーから山林解放や党資金カンパの要求を受け、その都度これを拒否していたことを窺い知ることができる。然しながら、本件犯行の直接の動機となつた七月二八日の矢細工公民館における謀議の経過を仔細に検討してみると、原審裁判官の証人佐野定昌、同佐野正博に対する各証人尋問調書、佐野定昌、佐野正博の検察官に対する各供述調書により明らかな如く、右会合においては、先ず山村工作隊のキヤツプ石丸から、自分達工作隊員が嘉盛の山林を盗伐するから、村の青年達によつてそれを搬出して貰い度いとの発言をしたところ、被告人佐野定昌、同佐野正博、同望月武夫等地元民は山林の盗伐には反対の意を表したので、山林盗伐については謀議が成立せず、続いて、望月昭二郎から第一回嘉盛方襲撃が失敗し共産党も大した事はないとの世評があるので、村の共産党の空気としてはもう一度嘉盛方を襲撃する要があると述べ、被告人佐野定昌から嘉盛を人民裁判にかけ我々の要求を承諾させ、その上で同人の山林を伐採することを提案した結果、第一の(四)に説示したとおり七月三〇日夜嘉盛方を襲撃し、同人を捉えこれに暴行脅迫を加えた上、半鐘を叩いて村民を集め、嘉盛を人民裁判にかけて大衆の面前で同人所有山林の解放を承諾させること、また、その際、同人所有の米等を強取して大衆に分配し、若し同人不在の場合は屋内の家財道具等を損壊することの謀議が成立したことが窺知できる。そこで右の如く嘉盛に対し暴行脅迫を加え、その反抗を抑圧した上村民を集めて人民裁判にかけその場で同人所有の山林の伐採を承諾させたとしても、それが直に刑法第二三六条第二項に言う財産上不法の利益を得、または得せしめた場合に該当するか否かについては更に検討することを要する。刑法第二三六条第二項の罪の財産上不法の利益を得又は他人をして之を得せしめたるものとは、同条第一項の財物を強取した場合と相対応して規定した法意から按ずると、後者において現実に財物の占有の移転が必要である如く、前者の場合においても債務免除の場合の如く単に意思表示のみで事実上も債務免脱の効果の発生するが如き場合は別とし、山林上の権利の取得の如き場合にあつては、単に意思表示のみでは足りず、法律上又は事実上財産上不法の利益の取得があつたと認め得る場合であることを要するものと解するから、本件の如く人民裁判にかけ大衆の面前でその反抗を抑圧して山林を伐採することを承諾させた上、その山林を伐採しようとする場合にあつては、単にその山林を伐採することを承諾させたのみでは未だ法律上は勿論、事実上も山林上の立木につき財産上の権利を取得したものとは認め難いから、右の如き謀議が成立したとしてもこれによつて強盗の共謀が成立したものとは容認することができない。よつて山林解放が所論の如く被告人等の本来の目的であつたとしても、それは動機に過ぎないのであつて、原判決が米の強奪と器物損壊等を以て共謀の内容としたのは正当であり、原判決はこの点において事実を誤認した違法はなく、論旨は理由がない。

(山本謹 渡辺好 目黒)

注 本件は他の理由で破棄

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